四十の手習い

娘が小学校に入学してから最初の夏休みを迎えた頃、学校の勉強や生活にも余裕ができ、持ち前の体力をもてあまし気味になっていた娘に、何か習い事をさせようかという話しが進みました。候補にあがったのは、スイミングと体操、空手、柔道、剣道などでした。娘はバレーをやりたいとか言ってましたが、似合わないとあっさり却下され、近くの道場に見学に行きました。
広い道場では、剣道と柔道と空手が場所を分かれて稽古していました。息子がこの道場で4年間空手を習っていたので、顔なじみの空手の先生にまず空手に誘われました。続いて娘の同級生が剣道をしていて、剣道にもスカウトされました。かみさんと暗黙の了解で、剣道は防具が高いから却下されていました。「剣道は似合わないよ」「空手か柔道が良いんでないか」などと意識をそらせていると、柔道で体力づくりに競争で走ったりしているのを見て、娘はかけっこが楽しそうに見えたらしく「あれにしようかな」と言いました。すかさず、ワタシとかみさんは「うん。あれが良いね」と、納得しました。こうして、2学期から娘は柔道を習うことになったのでした。
道教室は、週3回、1時間の稽古が行われます。自宅から道場まで車で10分近くかかるので、娘を送ってから一旦自宅に帰るより、終わるのを待っていた方が楽なので、ワタシは大概は道場の片隅で娘の稽古を見ていました。しかし、1時間はとても退屈で暇です。そのうちワタシも柔軟体操をし出したり、じっとしていられなくなってきました。柔道の先生に大人も参加できないか聞いて見ると、大人の教室は無いが子供と一緒に参加してもかまわないと言うことなので、早速、柔道着を買って小学生と一緒に稽古に参加したのでした。今まで柔道の経験は無く、まさに四十の手習いでした。日頃運動不足で体力の衰えと、肥満気味だったので丁度いい運動になりました。
やがて、小6の息子も柔道教室に参加して、親子で汗を流していました。時々対外試合などもあり、気が付くと柔道一家のように熱くなっていました。間もなく息子は小学校卒業とともに柔道も卒業していきました。息子に「父ちゃんはいつまで柔道続けるの」と聞かれ、「やるからには黒帯を取らなくてはな」と答えていました。
あれから二年、見よう見まねで小学生と稽古を続けてきたワタシが、去年の十二月に、中学生に混じって昇段審査を受け、一級と初段を続けて取ることができました。
今では、ワタシのライフワークの一つになった柔道ですが、娘はこの三月で柔道をやめる事になりました。元々かけっこがしたくて柔道を始めた娘ですから、かけっこになると一生懸命練習をしていましたが、肝心の柔道はあまり関心がなかったようです。娘には負けず嫌いなところが全く無いので、性格が格闘技には向いていないのかも知れません。
ワタシはもうしばらく柔道を続けていこうと思います。今は教室の子供達が上達していくのを楽しみに見守っています。